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(イラストレーター:ロレンス)
パタパタと走る音が聞こえてくる。
ここは美しく輝く星の国、その王宮の廊下だ。
そこを華やかなドレスを着た可愛い姫君が走っていた。
「姫!姫、お待ちください!危険すぎます!」
その後ろを、息を切らせながら一人の騎士が追いかける。
彼は彼女の護衛任務に就いている近衛騎士団の一人。
そして、彼女が一番信頼している大切な相手だ。
騎士はようやく姫君を捕まえると、息を整えながら少し怒った顔をする
「地上へは行ってはいけないと、父君や母君にご注意を受けているではありませんか」
姫君は少しふくれっ面・・・
「父様も母様も心配しすぎなの!前に行ったときは大丈夫だっ・・・」
「あれは兄君が姫を助けたからです!私・・・いや、俺の身にもなってください」
貴女が心配で心がつぶれてしまうかと・・・と、騎士は姫を抱きしめた。
姫は少しだけ大人しくなる。が、すぐにいたずら顔で騎士を見上げた。
「では貴方と出かけるわ。それなら大丈夫でしょう?」
かくして、姫の地上への探求心に負けた騎士は、国王に許可を取り
彼女と共に地上へと降りることになったのだった・・・
「美樹と星を見に行くって?」
『星月夜』寮の風樹の部屋。
ホットミルクを飲みながら、蓮花は頷いた。
「美樹お兄ちゃんがね?とてもきれいに見える場所を見つけたからって!」
うふふ~と嬉しそうな蓮花の顔を見て風樹は、しょうがないな。とほほ笑んだ。
「迷惑かけるなよ?お前はいつだって突っ走る癖があるから」
そんな風樹の言葉に、蓮花はべ~ッと舌を出す。
「大丈夫だもん!美樹お兄ちゃんは風樹と違って優しいもん!」
はいはい。と柔らかく微笑んで頭をなでる風樹。
そんな余裕な義兄がちょっと癪に障る蓮花である。
「夜は冷えるからな。ちゃんと暖かくしていくんだぞ?」
『星月夜』寮の門前。
走ってくる一つの人影。
その影は蓮花の前でとまると呼吸を整えながらほほ笑んだ。
「すまない、蓮花。待ったか?」
「ううん、大丈夫だよ。美樹お兄ちゃん」
蓮花はその人物を見上げるとにこっと微笑んだ。
彼女が『美樹お兄ちゃん』と呼ぶ少しワイルドな顔立ちの高校生、
この彼が寺島美樹。
風樹の親友でもあり、蓮花にとってはクラブの先輩で頼れるお兄さん。
そして・・・大好きでいつも一緒にいたいと思ってる相手だ。
風樹が用意した荷物を美樹は彼女から受け取ると、行こうか。と歩き出す
満面の笑顔で頷く蓮花を見ながら、彼はほんのりと心が温かくなるのを感じた
(すげぇよな、この子は。風樹が必死に守ってきたのが少しわかる気がするぜ)
その少女を自分に託してくれた親友に、彼はそっと心の中で礼を言った
バスに揺られて行くこと数時間ほど
通称【星空の里】と呼ばれている東京近郊の山の麓にある丘。
この場所はかなり有名で、真夏にはたくさんの人々が訪れるのだが今は晩秋だ
冬に向かう星空は空気も乾燥して、より小さな星も顔を出す。
人口の明かりが遠いことと月明かりが無いことで、天の川の雄大さも東から西へ姿を現していた。
「うわぁ~!凄いよ。すっごいね、美樹お兄ちゃん!」
「あぁ、これは凄いな」
今この場にいるのは、蓮花と美樹の二人だけ。
満天の星たちが二人を見下ろしていた。
「あ!ねぇねぇ、お日様が昇ってくる方向見て?オリオン座が昇ってきてるよ」
蓮花の指さす方向を美樹も見上げる。
冬の代表格であるオリオン座が東の空に、その美しい形を現し輝いていた。
「綺麗だな・・・蓮花はオリオン座が好きなのか?」
「うん!大好きだよ。それに一番初めに教えてもらった星座なの。だから美樹お兄ちゃんにも初めに教えてあげるね?」
えへへ。とほほ笑む彼女に、サンキュ。とほほ笑んで頭をなでた。
地面にレジャーシートを敷き、美樹は持ってきた毛布を肩にかけ少女をそっと守るように優しく包み込む。
「うんとね~もうちょっと上のほうにあるかなぁ、カシオペア座・・・あった!」
真上より少し北西のあたりにアルファベットの『W』の文字に見える並びがある。
それがカシオペア座だと、蓮花は美樹に話した。
もう少し遅い時間になると、オリオン座のほかに『牡牛座・こいぬ座・おおいぬ座・双子座』が出てくると付け加えて。
目を輝かせてダイヤモンドのように光る夜空を見上げている蓮花の額に、美樹はそっと軽くキスをした。
びっくりしている彼女に微笑んで、照れを隠すように夜空を見上げた。
「おっ、流れ星だぞ!」
「え!どこどこ?」
「今は東側からだな・・・ほら、まただ。」
慌ててきょろきょろと探す蓮花が可愛くて、彼はくすくすと笑う。
それを見てふくれっ面の蓮花だったが・・・
「あ!流れ星!それもおっきくて明るかったぁ!」
やったぁ!っとバンザイしながらはしゃぎ出す。
普段はおませな蓮花も、こういう瞬間には子供だな。と、
ふっと微笑ましく思う美樹。
だから、なんとなく気になって目が離せなくなってしまった自分がいる。
「あ!また流れた!ねぇ、見た?美樹お兄ちゃん。」
「おっと、今のは見逃しちまった」
そんな風に二人はあと数時間、この場所で『夜空の散歩』を楽しんだのだった。
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「私達がいる世界は、地上から見ると美しいのね?」
「えぇ。地上人から見れば、この輝く星々に住む私達は憧れでしょう」
地上から自分たちが住む星の世界を見上げる、姫とその近衛騎士。
その輝きに、しばらく言葉を失いながら・・・
「さぁ、姫。そろそろ王宮にお帰りになる時間です」
「・・・二人きりの時は名前でといったはずですよ?」
姫はちょっとふくれっ面。
騎士はくすっと笑うと、姫の髪をなでる。
「では・・・蓮、そろそろ帰ろうか?」
「はい。また一緒に来てくださいね?」
騎士はそっと姫の手を取ると愛おしく抱きしめ、空へと昇って行った・・・